総論

省胎七宝の作家・髙尾淳子さんのご自宅には、作品を展示するために誂えられた部屋がある。照明も省胎七宝の美しさが最大限に活かされる設計になっていて、いわば作家がこだわりにこだわって、その作品の特長が一番、素敵に伝わる空間になっている。そこで光の宝石のような、髙尾淳子作の省胎七宝のあれこれを堪能させていただいた。

七宝という技法は、普通は金、銀、銅などの素材でできた、たとえば器の形をした素地の上に釉薬をのせて800度ほどの高温で焼き、その溶けた釉薬がガラスの膜のようになって金属の素地の表面を覆う、というものだ。小さなペンダントのような七宝もある。作家としては、明治時代の七宝作家・並河靖之が有名で、彼の自宅兼アトリエは、今も京都市内に残り、記念館として公開されている。その七宝の技法には、主に有線七宝と無線七宝という二つがある。有線七宝とは、リボン状の金属線で模様を描き、その間に釉薬をいれ、ある色の釉薬と、別の釉薬が混じらないようにする。無線はそれがなく、色が混じり、境界部が滲む。

髙尾さんも、そのような通常の七宝に取り組んでいた時期もあったそうではあるが、ある時期から、省胎七宝に技法を定め、その美の可能性を追究してきた。省胎七宝とは、七宝の銅などでできた器などの形をした素地及び内側の釉薬を、薬品で腐食させ(硝酸を使用するため有毒ガスが発生するので危険を伴う)、表面にあった七宝だけが残る、という技法だ。これによってガラスは内側から外側に光が透ける。まるで机の上にのった、小さなステンドグラスのような世界となる。彼女の作品には青や淡い緑などの寒色系の色彩が多く使われる。その沈み込むような、ひっそりとした色が、ガラスのひんやりした質感とうまくマッチしている。

しかも細い有線で支えられた器は、厚み2ミリ程と繊細でもろく、荒っぽい扱いをしたら壊れてしまいかねない。そのもろさ、弱さが、さらに儚い美を生み出す。大江健三郎は、かつて『壊れものとしての人間』というエッセイを書いたが、省胎七宝は、そんな壊れやすい人間の心にも似て、しかしだからこそ、人間への愛おしさを語っている。髙尾さんは、その省胎七宝の作品に照明をあて、そのガラスを透かした色彩の、息を飲むような美しさを演出する。そんな光と色彩の美が、彼女の作品にはある。

美術評論家布施英利